2011年9月3日土曜日

【報告】持続可能な社会デザイン-3.11後の社会づくりプログラム第1弾-を開催しました

はじめに

鈴木講師
7月22日、講師に鈴木泰さんをお招きし、3.11後の社会づくりプログラムとして、「持続可能な社会デザイン―地域の活動から考えるこれからの社会とは―」を開催しました。

講師の鈴木先生は、八王子市職員。八王子市で10年以上地域の産業振興を務められていきました。現在は、八王子市から東京都へ派遣され東京都の中小企業の創業支援を行われています。八王子市では、自ら現場に足を運び、地元の多くの企業経営者との信頼を築きながら産業振興に尽力されてきました。

講義冒頭、参加者による「あなたの問題意識と解決策」の発表が行なわれました。問題意識を参加者間で共有し、いよいよ鈴木先生の講義がスタートしました。


「企業は成長」か

講義前半は、鈴木先生の自己紹介も兼ねながら、本業における産業振興や地域活性化のお話がなされました。先生は日頃、企業経営者だけでなく商工会や金融機関、大学や市民活動などとネットワーク、プラットフォームを作られて八王子独自の産業振興や地域の活性化を推進されていて、それに関連した講演がありました。
ここで私が特に印象的だったのが、「企業は成長を目指すもの」というパラダイムからのシフトでした。企業といえば、イノベーションを通じて成長・拡大を求めるもの、という理解は、私の中ではいつの間にやらビルトインされていた考え方だったのでした。しかし、どんな企業も全て押し並べて、成長・拡大を求めるものと捉えるのは、単純な理解であったと、この講義を通じて思うようになりました。
・ 我が国は、99%の中小企業と、70%の中小企業従事者で成り立っている。一部の大企業で成り立っている訳ではない。

・ 「企業は成長」といわれるが、成長を手段としてとる企業は、実は少ない。大半が、「成長をしない」という積極的な戦略を持つ(成長しないという戦略もあり得る)。だから、99%の事業所が中小企業で、70%の労働者が中小企業従事者。だから中小企業は、地域における雇用の確保に大きく貢献してくれている。

・ 事業所統計を見ると、5年間で3割の事業所が入れ替わる。そんな中、50年も一つの会社を経営している人なんか、私からすれば神様。

・ 確実に、富を生み出しているのは、この70%の人達だし、雇用を確保しているのは、この99%の会社。私たちのような公務員は、その一部を貰って仕事をしているに過ぎない。

・ そういう意味で、中小企業は、地域の運命共同体である。


「原発」というビジネスモデル

こうした、中小企業と地域を巡る我が国の社会において、20年以上前に確立し始めたビジネスモデルが、「原発」だったと、先生は指摘されました。原発を、当時のビジネスモデルとして捉える考え方は、私にとっては斬新なものでした。

・ 貧しい町が、豊かになる仕組みを、30年以上前に考えた人がいた。

・ 原発というビジネスモデルを、日本初めて確立したのは、田中角栄。出身地である新潟県の旧・刈羽郡(現・柏崎市)にそれを作った。原発雇用は3000人。労働人口5万人の中、重要な雇用を創出した。

・ 3000人雇用といえば、柏崎市に本社を置く株式会社ブルボンと同じ規模。しかし、ブルボンの基幹的な生産要素は「工場」である。「工場」は、10年に一度、設備更新(リニューアル)して持続可能に稼動できるが、原発はリニューアルできない(福島第一原発は、創業を始めてから同じ設備で今年の3.11まで稼動していた)。よって、原発は、償却資産税がいつまで経っても戻らない。
このお話は、どの会社も地域も、押し並べて拡大・成長を目指すことそのものに、本来無理がある、というテーゼの背景だったように思えます。拡大・成長は、サスティナビリティに直結しない。しかし、イノベーションは必要、という、様々な考えが議論されました。


地域と産業は密接不可分

鈴木先生は、本業の傍ら、10年以上前から市の職員やNPO、地域の有志など多くの人達と持続可能なまちづくりとはどのようなものか考え活動されています。市の職員という枠を外し、市民活動にも参加し、市民としてまちづくりにも関わられています。講義後半、「地域」という照準に、ぐっと捉えたお話が展開されました。
・ 拡大しないためのイノベーションが必要。

・ 同じことをずっとやるのが、持続可能ではない。イノベーションは、絶対必要。

・ 300諸侯の江戸時代、中心地の江戸がおかしくなっても、地方が大きかったので、江戸=日本は支えられた(新しい技術や思想は、江戸ではなく地方が持っていた)。

・ 第2次世界大戦、東京が丸焼けになっても、戦後急激な復興を遂げられたのは、地方に優秀な企業がたくさんあったから(トヨタ等)

・ 日本はいつも、地方が大きかった。今、日本の地方はどうだろうか。


老老介護だって、いいじゃないか

講義の最後は、地域の産業だけでなく、福祉についての言及もありました。このパートでのキーセンテンスは、「(老老介護は、悲惨だと報道ではされているが、)老老介護だっていいじゃないか」というメッセージでした。現在、無縁社会について別途研究している私にとって、最初は正直、「?」という思いでしたが、先生のお話を聴いて、その本質が紐解かれました。
・ 老老介護の問題。老老介護だって、いいじゃなか、という考え方を、私は持っている。

・ 介護保険受給者を見てみると、老齢人口の20%。つまり、残りの80%は元気な高齢者。

・ 今の介護保険制度が出来たのは100年以上前。人生50年、60年という次代の代物。どんどん寿命が延びて、今までだったらとっくに死んでいた年齢までも生きている。ただし、その間病気をする。体調を崩す。色んなリスクを背負って80歳前後まで生きている。それが現状。

・ そういう意味で、80%の元気な高齢者が、20%の不元気な高齢者の面倒を診たっていいじゃないか。

・ ここで必要なのは、パトリオティズム。ナショナリズムではない。愛郷主義である。

講義後半は、講師の鈴木先生も混ざって、参加者によるワークショップが開かれました。鈴木先生、ありがとうございました。

※文中の箇条書きは講演要旨を筆者が記録したもので、発言録ではありません。





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