「“持続可能社会の実現”という事業~最大のフロンティア市場~」。「衣・食・住足りて礼節を忘れ、不幸になる」をテーマとして、孔子もアダムズミスもマルクスも想像しなかったという副題で、熊野氏が約30年前に会社を興してから今までを通して実際に行ってきた事業のお話しから、経営理念を盛り込まれて中身の非常に濃い講義をしていただきました。
熊野氏は、私(漆原)がずーっとお会いしたかった方。ツイッターでやり取りをさせていただいたりして、まずます思いが高まりました。今回それが実現し一つ夢がかないました。
さて講義ですが、まず熊野氏から「人類は、史上はじめて物が豊かで、心が貧しい時代を迎えている」と非常にセンセーショナルな問題意識から始まりました。経済的に豊かになれば幸せになれるということが今までの常識でした。例えば「GDP2位を中国に奪われる!」などとマスコミが報道するとなぜか悔しく、悲しくなるのは、経済だけの物差しで考えていることが何か体に染みついているからだと思います。熊野氏の言葉は、センセーショナルだけれども誰も否定できない事実です。それがわからない。分かっていても変えられない。そういう社会に我々はいるんだということを改めて実感し、そういう社会の深い問題に企業の経営者が真っ向から取り組んでいるんだ!ということに、講義の開始から衝撃を受けてしました。
講義はアミタがどのように歩んできたのかに続きます。石油ショック、円高ショック、バブル崩壊、金融ショック、同時多発テロ(株価大暴落)、サブプライムローンというピンチをどのように乗り切ってきたかお話しがありました。顧客、社員に信頼される会社つくり。常識にとらわれず、発想をかえること。時代の変化にそって事業を展開してきた変化すること。でもその中には変化とともに、E・F・シューマッハ著「スモール・イズ・ビューティフル人間中心の経済学」での問題意識の追求という変わらないものが熊野氏の経営には存在していることが分かりました。
などなど、本当はもっと書きたいのですが限りがありませんので、熊野氏の経営理念、考え方に興味がある方は、著書の「思考するカンパニー」(幻冬舎)を読んでみてください。私は熊野氏と同じ問題意識を持っていたのですが、それはなぜそうなっているのか?どう説明するのか?という部分に関しては、明確なものを持ち合わせていませんでした。私はここがいわゆるその人の哲学の根源だと思っています。原発や有機農法などの是非を議論すること、考えること、答えの成否はなかなかでませんね。こういうときに、人類の長い歴史や生態系(私は人類も生態系の一部と考えています。)から学ぶのです。熊野氏はそれができている。(先輩に失礼ですが。)なので著書を拝読させていただき熊野氏の深い物事の分析と分かりやすく説明されていることから、非常に理解ができました。ただ、さらりと重たいことを説明されているので読み流してしまいがちですが、とても思慮深い内容の書籍です。一度読み終わり私は2巡目に入りました。
さて、講義や著書を通じて私が感じた3つのことを述べたいと思います。
はじめに、持続可能な社会を阻む問題として、水、食糧、エネルギー、資源の枯渇の問題が取り上げられがちですが、熊野氏はこのことが根源的な問題ではなく、人間の心の問題にあるとおっしゃいます。
この部分は本当に共感するというか、熊野氏の達観したものの考え方に私はため息がでました。私が感じているのは、例えば水について、節水器具や節水トイレを使って資源を有効に使おうとしても、水を大事にする心を持たなければ意味がないと思っています。なぜそうなってしまったのかというと、近代水道が普及して我々は恩恵を受けて水道事業者任せになってしまい、その代償として水を大事にすることや水への関心がなくなってしまった結果だと考えています。つまり便利さのあまり、リアリティを失ってしまった。。人間が生きていくために絶対に必要なものなのに、生活の中で水のことを感じ、考えることがなくなっていまいました。おいしい水ってフランスのボトルウォータなのって!そしてボトルウォータのような水をトイレやお風呂につかっていたり。。
これからの社会、もの以外に価値を見出す事業をしていくこと(特に心)が重要なんですね!
次に、関係性、不確実を確実にする事業です。関係性については、アミタが行っている「森林酪農」の例があげられるでしょう。日本の貴重な資源として森林があります。(森林自体、私は日本人の心の故郷だと思っています。)今森林が大変荒れています。人工林の問題や人の手が入らない森林がある。かつて地域に暮らす人々の共有の資産として、生活を支えていた森林の木材は、安い輸入材にとってかわられ、森林は価値がないと見なされて放置されてきました。森林と人々の暮らしとのつながりがとぎれてしまったのです。しかし、アミタは、そういった森林の中に牛を周年放牧し、森林の空間や自然を活かしながら酪農を行うことで、森林を適切に管理し、美しい森づくりを目指す「森林酪農」を実施することで、森林と酪農に新たな価値を与えました。アミタが運用する「森林ノ牧場」では、新たな雇用を生み出し、また地域の方々が集う場、また都会と地域、都会と自然をつなぐ場となっています。そういった関係性を築いていくことの重要性を理解することができました。また、経済社会の変動やエネルギー資源の変動に影響されない、産業やコミュニティーがそこにできている。つまり、これからの不確実性が増していく社会の中、関係性をつないでいくことで非常に安定的な事業を行っていくことができるのですね。
講義の質問の中で、水と森林について出ましたが、その中で、関東平野でいえば利根川などの河川の上流の農耕地で化学肥料や農薬を使うと、下流の地域でそれを飲料水として使用しなければならないという問題がでました。こういった水の問題は、国の間でも農林水産省、環境省、厚生省と縦割りになっていて、いくら我々が課題だ!何とかしろ!といってもなかなか解決ができないでしょう。多分、縦割りの行政組織では関係性を築いていけないからだと思います。こういった部分を熊野氏が言う「最大のフロンティア市場」なのではないかと思いました。
実際に動きだしたプロジェクトとしてT2Sが行っているロングサイクルプロジェクトもそういった解決を図っていきたいもの。人間にとって環境にとって良い自転車という乗り物が、都会では放置自転車として、自治体の財政負担(23区では年間150億円を投入)、自転車の使い捨て、まちの景観、歩行者の通行障害などの害を生んでいる。そのために、駐輪場を整備するだけではだめで、放置されないような関係性を気付いていくことを進めていきたいと考えています。
最後に、企業組織の考え方です。著書にある「思考するカンパニー」。熊野氏は、未成熟で生まれる人間は、他の哺乳類に比べ大脳が発達しすぎて未成熟で生まれると。つまり、ライオンは、シマウマを捕って食べるために、牙と爪がある。シマウマは、草を上手に食べてエネルギーに変える歯や消化器官がある。生物はそうやって淘汰され進化してきたんですね。(著書に鮒の話があります。)人間は、集団生活を営み安全に暮らしていくために大脳が発達しているんだということが分かりました。これは人間にだけ与えられた特別なものです。つまり考え方が悪ければ、生態系の中で淘汰されるし、良ければ生き残ることができます。人間も企業組織も同じで思考することが大事であるということです。このことを考えると、今の社会でどうすればいいのか必然的に分かるでしょう。
実は、私が、T2Sの名称を考えた時も同じことを考えていました。持続可能性を実現するために終わりはない。考え続けることだと。だから名称にThinkという言葉を入れました。それも、ただ考えるだけではなく、考えては一歩行動し、また考えるその繰り返しかと思っています。
それと、アミタでは入社することを「合流」といいます。これはアミタが社員を労働者としてではなく、持続可能な社会を実現するための同志であり、一緒に夢を実現しようという思いからだそうです。こういった今までの企業とまったく異なる価値観を持った会社の理念から多く刺激を受けました。
T2S白熱教室では、終了後に恒例のバータイムがあります。普段お忙しい熊野氏とアミタHD広報担当の鎌田さん(T2S白熱教室の事前調整にすごく丁寧に対応して下さった素敵な女性です。)も参加し、参加者は皆さんが感じる問題意識を楽しく時に真面目に意見交換しました。もちろん、熊野氏の周りは参加者が取り囲み、23時過ぎまで盛り上がりました。最後に、駅まで行く途中で、記念撮影をしました。
熊野様、鎌田様本当にありがとうございました。まだまだ書ききれないことばかりですが、またいつかご一緒できればうれしいです。
レポート 漆原隆浩
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