12月22日 東京大学本郷キャンパスで、東京大学鎗目准教授、エドワード福井さんとサスティナブル・シティ研究会を行いました。
研究会としては、現在、ご活躍中のお二方をお招きしてお話しを伺いました。
お一人目は、PNBアセット・マネジメント・ジャパン株式会社 代表取締役 水島 正氏から、『マレーシアの国家ファンド PNB社 の日本での活動について』
もう一人は、東京都副知事 猪瀬 直樹氏から、『東京都が実行する多様なエネルギー供給の具体策』です。
◆PNBアセット・マネジメント・ジャパン株式会社代表取締役 水島 正氏
水島さん(あえて親近感を込めて「さん」と使わせていただきます。)からは、マレーシアという国、アジアの中のマレーシアの立ち位置について、そしてPNBの会社の説明とPNBの事業活動についてお話いただきました。
■アジアの優等生“マレーシア”
「マレーシアについてですが、以下のような特徴があります。
・ASEAN、英連邦にありながらイスラム諸国会議機構に参加している唯一の国である。
・マレー系、中国系、インド系と民族が多様である。
・マハティール首相のLook East政策以降の親日国である。
・天然資源大国として、スズ、ボーキサイト、金、鉄鉱石、原油、天然ガスを算出している。
・先進のイスラム金融大国である。(証券市場規模はシンガポールについで2位)
・2020年までに先進国の仲間入りする目標を立てて工業化を進めている。(GDPはアセアン第3位)」
などの説明がありました。
■経済成長と持続可能性の両立を目指したマレーシアの新経済モデル
「2010年3月に発表された新経済モデルには、「高い経済性」「持続可能性」「包括性」3つの基本方針を掲げている。」
国民の高所得化を目指す中でも、将来世代につけを残さないという「持続可能性」が基本方針に含まれている所が、国の方針として明確でわかりやすい。また、「包括性inclusiveness」はちょっとわかりにくいのですが、健全な国家からできる限り関係する国と多くの利益を得ること?(英語の理解が十分でなくすみません。)という説明がついていました。この政策については、ビデオを見せていただいたのですが、発展するアジアの国ということと、サスティナビリティの概念を強く打ち出しているように感じました。ただ、屋根瓦のメーカーが一面に出ているのですが、チョット層がまだ薄いように感じました。この辺は、水島さんもおっしゃっていました。
■イスラム国家の国営金融会社であるPNB
「PNB(Permodalan Nasional Berhad)ですが、直訳すると国営株式 株式会社だそうです。設立目的としては、政府の新経済政策の中心機能で、①ブミプトラ社会に株式投資を通じた貯蓄を促進②ブミプトラの経済的地位の向上③マレーシアの産業創出の3つです。」
ブミプトラというのは、イギリス植民地時代に、イギリス人や華僑より地位が低く、搾取されたマレー人の地位等の向上を目指した政策で、マレーの歴史を物語っています。
「PNBの特徴として、総額5兆円の運用資産があり、不動産投資信託、不動産投資、政策株式投資VC投資等のポートフォリオを運用している。ただし、社債などはやらない。」
ここのニュアンスとして、金儲けだけのための投資活動は行わないと説明を受け取りました。株主は、首相が理事長の国営財団だそうです。
■PNBJapanとは?
「PNB Japanですが、PNBは海外にシンガポール、イギリス、日本と3拠点もっているそうです。日本に拠点を置いているのは、マハティールさんの親日志向だから。」
日本人としては、大変うれしいですね。日本拠点は、日本、中国、韓国、台湾の上場株式投資を行なっていると説明がありました。
大変興味深いのは、投資先に、エシカル・スクリーニング・メソドロジー(Ethical Screening Methodology)というスクリーニングをかけることです。これは、イスラムからみて不健全な活動に関与しないという強い倫理的な意思を感じました。コアなスクリーニングとして、8つ掲げていて、ゲーム産業、たばこ、ギャンブルや先ほど説明した社債などです。また、財務的なパラメータチェックとして、自己資本率が1/3以上あることなど、健全性とともに、キャッシュを貯めこんではいけないということがイスラムの経典の中で(その中で1/3ということも)うたわれていることから決められているとのこと。
■会場からの質問
Q1)ゲーム産業がだめというと、任天堂などのゲームメーカーだけでなく、モバゲーなどネットワークを介している会社もあり、クラウドコンピューティングなども含めて、IT産業自体が投資対象から外れるのでは?
Q2)オリンパスの事件などをみても、表面的に会社として健全なのかどうかがわからないが、何かそこまで調査できるのか?
などがあり、水島さんからの回答として、
A1)質問の内容については、難しいところ。でも8項目の制限は厳しく思われるかもしれないが、実際に引っかかる企業は、全体から見ると少ない。
A2)内部的な部分の調査は、かなり難しい。だが、有価証券報告書の「問題」の欄をみるとその会社がどのような姿勢で会社を経営しているのかよくわかる。
◆東京都副知事 猪瀬 直樹氏
水島さんの講義が終了する頃、猪瀬さんが会場に来られました。前段の水島さんのお話しを猪瀬さんに伝えると、「是非、東京がやっている発電所建設に投資してください。」と水島さんにおっしゃっていました。
■東京と大阪の連携で電力事業にくさびを入れる
猪瀬さんからは、研究会の前日に、都庁に橋下市長が来られた際に話した内容について、まず話がありました。国や東電が、総合特別事業計画を打ち出そうとしていることを、
「株主に説明もなく重要なことを決めていいのか?」、
「秘密で株主総会をやっているようなものだ」
と指摘し、大阪と連携して、東電、関電の大株主として、今後の電力事業について株主提案をしていくことを橋下市長と話したとおっしゃっていました。
■複合的なメリットがある天然ガス発電所の建設
次に、今進めている天然ガス発電所建設について説明がありました。
「首都圏の経済活動、企業活動を支える電力供給が現状まだ不安定、不十分で、今の東電には、電力需要をまかなう発電所の建設は無理である。東京湾周辺には、運転期間が40年を超える火力発電所が約850万kWあり、5年後には1500万kWとなる。
東京都では、九都県市連携でファンドを作り、天然ガス発電所を建設する。東京都では、組織の縦割りを打破するために、プロジェクトチームを作り調査を進め、東京湾周辺に建設候補地を上げている。
なぜ、天然ガス発電所かということについては、建設費が安いこと。発電所建設に当たって必要な敷地が少なくてすむこと。これらは、川崎天然ガス発電株式会社の発電所をはじめ水力、コジェネ、地熱発電所を視察に行ったことなどを踏まえて検討した結果であり、天然ガス発電所は、100万kW級でも6万平米(川崎火力発電所を例に、実際は、緑地があるので発電施設としてはもっと狭い。)と用地が少なくてすむことである。
建設コストとしては、川崎火力発電所の場合、平成18年に運用を開始されたこともあり、建設費は600億円でできた。しかし、現在は、中国の建設ラッシュの状況などもあり、鉄鋼等の価格が上昇し、1000億円程度かかると試算している。その資金として九都県市が公共セクターとして拠出するが、足りない分は、公共セクターの信頼を活かし民間から2割くらいの投資を見込んでいる。
老朽化した火力発電所の発電効率は、約40%であり、それを最新の天然ガスコンバインドサイクルにすると、効率は60%で1.5倍の電力が得られる。いつ壊れるかわからない老朽化した発電所を更新することは、電力の安定的な供給を確保するだけでなく、環境にもとてもいいことになる。」
■電力送電網は高速道路、発電所はS.A.
「発電所をつくる計画とともに、発電した電力をどのように送電するかということをかんがえなければならない。東電の固定試算について分析した結果、発電所は約2兆円、送電網については、約5兆円となっていて、発電所より送電網が2.5倍もある。資産管理上も運用上も送電網が重要であること。電力事業を高速道路に例えると、発電所は、サービスエリアで、送電網が道路であるということが分かった。」
■発送電分離は、「言語明瞭、意味不明」
橋下市長との会談で、マスコミが「発送電分離」という報道をしているが、猪瀬さんはそんなことを言ったのではないとおっしゃっていました。
「『発送電分離』というのは言語明瞭意味不明。マスコミは表面的なことしか取り上げず、深い考察、議論がされていない。発送電分離とはどのようなことか、きちんと理解をしている人が少ない。」
原発事故など東電バッシングの中で言葉だけが先行していることに会場の参加者も気付かされたと感じました。
発送電分離より、なぜ電力会社が9社もあるのか、ということに触れられています。
「今秋に東北電力の供給能力が100%に近くまでいったことで、東電から融通された。周波数の関係で東西の統合は無理があるが、むしろ統合すべき。」
このことは、東京メトロと都営地下鉄の問題と同じで、統合することで共通経費が削減でき、サービスが向上する。公益事業の経営のあり方を示しているのでしょう。特に、送電の運用についても東電の能力は高く、現状では、東電以外には考えられないこと。このままの経営体制でも、国営化するのでも現状の人材、組織が運用せざるを得ないだろうと考えを示されていました。
■東電がすべて悪いのではなく、悪いのは電力事業のガバナンス
「発電に関しても、送電に関しても東電(の現場は)は真面目すぎるくらい、まじめにやっている。また高い技術を持っているので、首都圏で発電所を作っても運用は、東電の社員がやってもらってもいい。また、送電も然り。何が悪かったかというのは、電力事業のガバナンスが悪かったのだろう。」
■意外と知らない現状の電力自由化
「現状、東電の電力網を使って電気事業を行なっている特定規模電力事業者(PPS)がある。PPSには「30分同時同量」という規制がかけられている。一般電気事業者以外のPPSなど電気事業者は、自分の会社が作りたい時に電力を作って、作りたくないときに作らないというのは許されていない。PPSの発電所の送電端にメータが取り付けられていて、またPPSの顧客にもメータが取り付けられていて、30分の間、ある範囲を超えてしまうと、ペナリティを払わなければいけない規制がある。これは一種の保険のようなものだ。東電などの一般電気事業者には、電気を安定的に供給しなければならない義務がある。我々は、それにお金を払っているのである。」
■身近な電力の単価、契約を意識しているだろうか?
「では、実際に我々が支払っているのは、いくらか?また単価はどのくらいなのか知っているだろうか?例えば、ここ東大はどうだろう?家庭はどうだろう?以外とみんな知らないんです。東京都の施設の料金、単価を調べさせたら、様々であった。また、同じ東京都であっても、施設ごとに東電と契約している。それはチョットおかしいのではないだろうか?」
■発電所は地域の観光資源、付加価値創出
「地域に発電所があることが一部の住民には、迷惑だと思われるかもしれない。でもその発想は変える必要がある。例えば、煙突の周囲を囲むように、煙突の排熱を利用して野菜を作ったらどうだろうか?また照明で照らし、演出したらどうだろうか?地域の観光資源としても有効だと思う。天然ガス発電所の建設については、そういった視点からも考えていく必要がある。」
■会場からの質問として
Q3)東京都にエネルギーのことなど提案したいのだが、提案に行くと担当じゃないとか、はねられてしまうのですが、どのようにしたらいいのでしょうか?
Q4)電力事業の国営化について。
などがあり、猪瀬さんの回答としては、
A3)都庁も確かに組織の縦割りがある。副知事に就任する際に、議会から承認を受けなければならないが、行政組織に関与しないようにとの条件で承認された。副知事としての担当は、国や特別な課題についてである。だが、そういう制約の中、組織の縦割りを個別課題のプロジェクトチームを作って対応している。提案があればどんどん提案して欲しい。
A4)なぜ国有化がいいのか説明してほしい。(質問者「わからない。」)では、国有化にこだわらなくてもいいのではないか?
研究会終了後、名刺交換が行われ、参加者や登壇者との交流がはかれました。
特に、交流会では、事務局、参加者などさらに交流をもつことができました。
会場が小規模の会議室であったため、登壇者との距離も近く、特に、猪瀬さんの発言は説得力があると言った感想を持たれている人もいました。
今後も、特にエネルギー、資源を対象として、サスティナブル・シティ研究会を行なっていきたいと思います。
以上
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